1 同じだけ食事をして運動量も変わらないのに、ある人は太りやすく、ある人はやせているのはどうしてでしょうか。それは両親から受け継いだ遺伝子によって、太りやすい体質に個人差があるからです。肥満遺伝子検査の結果をもとに、自身の体質を詳しく知ることで、より効果的な食事プランや運動計画を立てることができます。
2 腸内環境と肥満を含む健康障害の関連性が相次いで報告されています。自身の腸内フローラ(細菌叢)を調べると、健康に関わる代表的な善玉菌、悪玉菌と併せて、肥満を後押しする細菌の比率がわかります。その結果をもとに食習慣を変えて腸内フローラを味方につけることで減量が可能となり、今、新たなダイエット法として注目されています。
3 更年期と肥満について、とくに男性では男性ホルモン(テストステロン)低下がメタボリックシンドローム(内臓肥満)の発症と関わっていることが指摘されています。
個人の遺伝的体質、腸内環境、また年齢を考慮した効果的な肥満対策、これがオーダーメイドの肥満治療です。
個人の体質に合わせたオーダーメイドの肥満治療のために、肥満遺伝子診断が有用です。これまで知られている代表的な肥満遺伝子には以下の三つがあります。当クリニックでは希望者に肥満遺伝子診断(7,050円、消費税別)を行い、カウンセリングを通じて、体質に合ったよりきめこまかい食事・運動指導を行っています。肥満遺伝子検査はオンライン診療で行うことができます。
1)β3-アドレナリン受容体(β3-AR)遺伝子
β3-ARはカテコールアミンによる白色脂肪組織での脂肪分解による体脂肪減少に加え、褐色脂肪細胞での熱産生によるエネルギー消費に対し重要な役割を果たしています。この遺伝子に変異があると一日あたりの基礎代謝量が約200Kcal低下し、内臓脂肪型肥満(メタボリックシンドローム)、インスリン抵抗性、2型糖尿病の早期発症に関与することがわかっています。34%の日本人にβ3-AR遺伝子の変異が存在します。糖質を過剰に摂りすぎるとお腹周りに脂肪が付きやすく、食事では糖質制限、運動療法では有酸素運動を積極的に行います。
2)β2-アドレナリン受容体(β2-AR)遺伝子
β2-ARは心臓、気管支平滑筋などに存在し、脂肪組織中では脂肪分解能の亢進と関連します。この遺伝子の変異は日本人の16%に存在します。通常太りにくいタイプですが、一度太りだすと痩せにくい欠点があります。肥満者では適切なカロリー摂取と併せて、運動療法(特に筋力トレーニング)を積極的に行うことで、安静時代謝量が100-300Kcal亢進し、肥満改善が期待できます。
3)脱共役蛋白質1(Uncoupling Protein;UCP1)遺伝子
褐色脂肪細胞のミトコンドリア内膜に存在する熱産生蛋白質で、この遺伝子の変異は体脂肪蓄積に関与します。日本人の16%にUCP1異常が認められ、安静時基礎代謝が約100Kcal減弱しています。脂質の過剰摂取により下半身に脂肪が付きやすくなる特徴があります。そこで食事療法では脂質の制限を行い、脂肪代謝を高めるL-カルニチンなどのサプリメントを用います。
腸内フローラとは人の腸内に生息する多種多様な細菌叢のことで、宿主であるその人の健康状態に大きな影響を及ぼします。それらの細菌は、1善玉菌(アクチノバクテリア門)、2悪玉菌(プロテオバクテリア門)、3日和見菌(バクテロイデーテス門/ファーミキューテス門)に大別され、3の日和見菌に属する二つのグループのうち、バクテロイデーテス門の比率が大きい人ほど肥満度が低いこと、さらに食習慣の改善によってバクテロイデーテス門の細菌が増えてダイエットに役立つことが確かめられています。
ダイエットの基本が食事(適切なカロリー摂取)と運動(消費カロリーの増加)であることに変わりはありませんが、今、第三のダイエット法として腸内フローラの改善が注目されています。当クリニックでは、適切な食事、運動療法を行っていても、なお減量が困難な肥満患者さんを対象に、カウンセリングと腸内フローラ検査(18,000円 消費税別)を行っています。腸内フローラ検査はオンライン診療でも行うことができます。
更年期以降、誰もが体脂肪が増えて太りやすくなります。その大きな要因は、筋肉量が低下することで基礎代謝が減少するためです。50歳を過ぎると全身の筋肉量は年に1%ずつ減少しますが、女性の場合は元来筋肉量が男性より少ないために急に太りやすくなるという特徴があり、男性の場合加齢に伴う男性ホルモン(テストステロン)の低下が筋肉量と筋力低下を促進します。
女性の平均閉経年齢は50歳で、血中FSH値40mIU/mL以上かつE2(エストラジオール)値20pg/mL以下を閉経と診断します。女性の更年期は閉経をはさむ前後5年間と定義され、ほてり、発汗、冷え、めまいなど血管運動神経症状、うつや不安などの精神神経症状、肩こりや筋肉痛などの運動器症状、また消化器症状、泌尿生殖器症状があり症状は多彩です。更年期の女性に好発するうつや甲状腺疾患との鑑別診断は重要です。
一方男性の場合、加齢と共に低下するテストステロンが原因で、男性更年期(LOH症候群)が進行します。代表的な症状は、勃起障害(ED)など性機能低下に加えて、筋肉量低下、骨粗鬆症など筋骨格系•身体機能の低下、内臓脂肪増加、動脈硬化促進など代謝•心血管系疾患の増加、さらに認知機能や腎機能の低下が出現します。血中遊離テストステロン値 8.5pg/mL以下が治療開始の基準です。ED患者は30-40歳代が多く、これは血管内皮機能が早期から低下し、将来心血管疾患のリスクが高いと考えられ、適切な治療が必要です。現在増えている男性のメタボリックシンドロームや糖尿病の発症には、テストステロンの減少との関わりが指摘されています。
厚生労働省の最近の調査によると、日本では働き盛りの人のリタイヤや突然死に、心血管病(狭心症、心筋梗塞、脳梗塞など)がかなりの割合を占めているという調査報告があり、その原因としての動脈硬化の予防に重点が置かれています。動脈硬化という言葉は、誰もがしばしば耳にする言葉で、高血圧、コレステロール、糖尿病などが動脈硬化を促進させる危険因子であることも、広く知られるようになりました。しかし血管の老化現象である動脈硬化は、男性は働き盛りの45歳、女性は閉経時期の55歳ごろより、まったく自覚症状なく、身体の中で進行します。つまり男性の場合、先に述べた心血管病の予防は、50歳になってから行うのでは、すでに遅いのです。
上の図は、動脈硬化の危険因子数と、心臓病の発症リスクの関係を表しています。危険因子(肥満、高血圧、高血糖、脂質代謝異常)を3つ以上、たとえそれが軽微であっても、重複して保有する人では、危険因子ゼロの人に比べて、心臓病の発症リスクは31倍に跳ね上がることがわかります。今日、生活習慣病と呼ばれる高血圧、高脂血症、糖尿病などは、体質(遺伝的素因)に加えて、運動不足や肥満など、現代人に共通する生活背景(環境因子)があって発症する病気と考えられており、一つの病気が見つかった人は、すでに別の病気の芽を宿している可能性が高いのです。こうした病態はメタボリックシンドローム(代謝症候群)と呼ばれます。その基礎病態は腹部の内臓脂肪蓄積(上図CT写真の赤色の部分)ですが、上手に食事をし、適切に運動することは、この内臓脂肪を改善して、全ての病気を芽のうちに摘み取るために、もっとも確実で有効な手段となります。